iNPHの治療方法は?
どんな手術をするの?
- iNPHの治療では、髄液の流れを良くする「髄液シャント術」と呼ばれる手術を行います。
これは、流れの悪くなった髄液通路の替わりにカテーテル(管)を体内に埋め込み、過剰に溜まってしまった髄液を腹腔(お腹にある空間)などへ排除することで脳への圧迫を解放し、髄液循環や脳神経機能の改善を施す治療法です。 - 髄液シャント術の方法には、「脳室-腹腔シャント」・「脳室-心房シャント」・「腰椎-腹腔シャント」があり、日本では、頭の骨に小さな穴をあけ、脳室から腹腔までカテーテルを挿入する「脳室-腹腔シャント」と、腰椎から腹腔までカテーテルを挿入する「腰椎-腹腔シャント術」が多く行われています。どちらも溜まった髄液を腹膜内で吸収させる方法です。
いずれの手術も脳神経外科の手術としては比較的短時間で行われる手術です。手術時間の目安はおよそ1時間程度ですが、全身麻酔、手術体位の調整と消毒など合わせ出棟から帰室までの目安は2〜2.5時間程度です。また、術後の24時間は十分観察、さらに脳室・クモ膜下腔の大きさの変化を診るために、CTやMRIを行います。その後リハビリ、症状の改善を確認するためにも、1週間から10日程度の入院が必要となるケースが多いです。
改善度合は?
治療前と比べ、手術後はCT・MRIの画像でもその違いが現れ、症状の改善も見られます。

上の写真は、実際の脳のMRI画像です。シャント術後は脳室のサイズが縮小し、円蓋部クモ膜下腔の状態が正常化していることが分かります。実際に症状としては、個人差はあるものの、歩行障害は約80%、認知症は約70%、尿失禁は約50%程度の方が改善し、介護が軽減するケースも多く見られます。
出典:特発性正常圧水頭症ガイドライン第3版
悩まずに
- 近年のiNPHの診断と治療は、診断率・改善率ともに年々向上しています。
特に「圧可変式バルブシャントシステム」の登場で、iNPHの治療は大きく進歩しました。
髄液シャント術では、症状の改善を得るためにある一定量の脳脊髄液を排出させる必要があり、脳脊髄液の過剰に排除されると、合併症を引き起こしたり、逆に排出が足りないと症状の改善を得られません。
現在の髄液シャント術で使用している「圧可変式バルブシャントシステム」は、患者さんの症状・状態に合わせて痛みをともなわずに設定圧の変更が可能で、脳脊髄液の排除を一定量に保つことができるようになりました。
また、圧可変式バルブシャントシステムを構成する部品のうち、髄液の量を調節する「圧可変式バルブ」は、MRI検査などの強い磁気にさらされると圧設定が変化する可能性がありますが、現在では、MRIに対応している圧可変式バルブも登場しました。さらに、髄液を排出する細い管である「カテーテル」は細菌が定着・増殖し、感染症の原因にもなりますが、感染の発症リスクを低減する「抗菌剤含侵カテーテル」なども普及しています。
このような技術の進歩により、的確に診断がなされた場合には、髄液シャント術の効果は90%に達しますが、症状の改善度合いや著しい改善がどうのような場合に得られるかはまだ明らかではありません。同時に、手術に適した時期を過ぎてしまうと、iNPHと診断され手術を行っても、症状の改善が大きく期待できない場合もあります。歩行障害・認知症・尿失禁といったiNPHの症状をなるべく早く見つけ出し、精度の高い診断によって正しい治療を行うことが大切です。
少しでも思い当たることがあれば、ぜひ一度受診してみてください。
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