患者と家族の体験談

塚本 幸江さん(78)
手術を迷われている方に
伝えたい。
『手術して私は元気です。』
ご紹介文
2020年9月に帝京大学医学部附属溝口病院でLPシャント術を受けた塚本さん(78歳)。5年前の72歳頃から転倒が増え、尿失禁もあったが歳のせいだと思っていたという。「iNPHという病気が原因と知って驚きました。」そう話す塚本さんと旦那さんに、お話をうかがった。
異変を感じたのはいつ頃でしたか?
「5年前頃から、よく転ぶようになったんです。何もない平らな場所や、町内会の仕事中でも転ぶことがあって、どうしてこんなに何度も転ばないといけないんだろう?と不思議に思っていました。すってーんて転ぶんです!(笑)」
手術前の様子について、元気よくはきはきとお話してくださる塚本さんだが、手術前は歩き方への違和感や、転倒といった歩行障害の他、尿失禁の症状も重なって出ていたようだ。
「ふらふらと横に行ってしまうような感覚がして、歩き方がおかしく、まっすぐ歩けませんでした。でもそれは持病でひざが痛いのが原因で、尿失禁は歳のせいなんだろうと思っていました。」
病院を受診したきっかけは?
「自宅が水害に遭い、自治体の助成を活用して検査を受けることができたんです。母が脳梗塞だったこともあり、私も調べてもらった方が良いかなと、かかりつけ医に相談し、CT専門センターで脳の画像を撮ってもらったところ、iNPHの疑いがあると分かりました。」
そして塚本さんは、帝京大学医学部附属溝口病院の中根一先生を紹介され、iNPHの手術を受けることになる。
「検査を受けた時は軽い気持ちだったのですが、真剣に私の話を聞き、iNPHを見逃さずに診断してくださったかかりつけ医の先生に感謝しています。中根先生のことも市民公開講座でお顔やお人柄も知っていたので、安心して受診することができました。」
iNPHの診断を受けたときのお気持ちは?
「子供の水頭症は知ってましたが、大人の水頭症は知らなかったです。歩きにくいというのは歳のせいだと思っていたので、脳にお水(脳脊髄液)が溜まっていたことが原因だったなんて、まさか!でした。」
歩行障害や尿失禁というiNPHの特徴的な症状が出ていたが、iNPHを知らなかったため、病気は疑わなかったという。
「でも、先生が手術したほうが良いとおっしゃったし、脳梗塞の母の介護で私も大変だったので、周りに迷惑を掛けたくないと予防の意味から手術したんですが、放っておいたら今どうなっていたか分からないので、手術して良かったです。もし手術を迷われている方がいらっしゃれば『手術して私は元気です』と伝えたいです。」
手術をされてから
「まっすぐ歩けるようになって、転ばないし、尿意を我慢できるようになりました。」
iNPHの場合、尿を溜める能力が低下し、失禁することが多いため、手術で尿失禁の改善が得られたのだろう。
「頭がすっきりした感じもします。計算のテストは難しいですが、生まれた時から苦手だから(笑)。」
冗談を交えて話してくださる塚本さん。
「iNPHの存在を知ることが大事だと思うので、周りに口コミしているんです。あと、少しでもおかしいと思ったら、検査を受けることが大切よ!って。」
旦那さんも
「こんな風に元気だから、じっとしてて、とお願いする方が多いんです。」
と笑顔で話してくれた。手術後の経過はすこぶる順調のようだ。

帝京大学医学部附属溝口病院
中根 一先生より
高齢者ではiNPHを有していても、脳の萎縮と誤診される例も多く、専門医を受診して判明する場合がほとんどです。そのため、塚本さんのように頭部CT検査でiNPHと診断されたことは幸運なことだと思います。塚本さんは症状の自覚が乏しい時期に診断されたため、手術に対して不安も大きかったと思いますが、私の話に耳を傾け、決断してくださいました。勇気が必要だったと思います。iNPHは手術で改善が見込める病気ですが、タイミングを逃すと十分な結果を得られないことも事実。手術の恩恵を受けていただくために、患者さんの信頼関係を大切にしたいと感じています。