患者と家族の体験談

田中 敏之さん(76)
見過ごされなかった
iNPHの所見。
「お話しする時間が楽しい。」
ご紹介文
2021年6月に国際医療福祉大学成田病院でLPシャント術を受けた田中さん(76歳)。2019年頃から転倒するようになり、2020年には認知症・尿失禁の症状も現れていたという。介護保険の申請で受診した際、幸運にもiNPHが見つかった。手術から1年、田中さんの奥さんにお話をうかがった。
異変を感じたのはいつ頃でしたか?
「2020年9月頃です。主人に駅へ車で迎えに来てもらった時に、お願いした場所ではないところに車が停めてあって…そのことを伝えると『俺はここだって聞いた。』と言われ、どうも様子がおかしいと思い始めました。」
奥さんが田中さんの異変に気づいたきっかけは認知症状だったようだが、後になって考えてみると、その前から歩き方にも違和感があったと当時を振り返る。
「物忘れがひどくて、朝ご飯を食べたことも覚えていない。ぼーっとすることもありました。でも今考えると、前のめりに歩くし、歩くスピードも遅かった気がします。急に歩くのが遅くなったとは思っていました。」
病院を受診したきっかけは?
「おかしいと思ったので近くの病院を受診したところ、パーキンソン病ではないかと診断され、成田病院を紹介していただきました。」
当時の様子を田中先生にうかがった。
「田中さんは介護保険の申請のために、別の病院で内科を受診されました。そこでパーキンソン病の疑いがあると診断され、2020年12月に当院の脳神経内科を受診。脳神経内科の検査でiNPHの所見が認められたため、タップテストを行ったところ、TUGが23~29秒から、15~18秒と10秒近く改善されました。しかしMMSEは改善されなかったので、iNPHとアルツハイマー型認知症の併存例と判断しました。」
iNPHの診断を受けたときのお気持ちは?
脳神経内科で単なる「アルツハイマー型認知症」ではなく、iNPHの併存が見逃されずタップテストまで行われたのは、田中先生の院内での啓発活動が実を結んだのだろう。iNPHと診断された時のお気持ちを、奥さんに尋ねた。
「全く聞いたことがない病気でした。手術前は転びそうになったり、私が支えて歩かないと危ない時もありました。病院に来る時は車イスも使っていたくらいだったんです。ただ、先生が手術をすればある程度良くなるとおっしゃったのを聞いて、これ以上悪くなることがなければ手術をした方が良いと思って、前向きに考えました。頭の手術なので躊躇はしましたけど、先生が早い方が良いですよ、と言ってくださったので。」
手術をされてから
「手術して本当によかったです。ある程度会話できることも嬉しいし、歩く時に杖も持っているだけで全く杖をついてないので、それだけ(症状が)良くなったってことなんでしょうね。」
ご主人も
「今このお話ししている時間がとっても楽しいです。本当に。」
と、取材の時間を楽しんでくださっていた。アルツハイマー型認知症の記憶障害などは残っているようだが、それでも奥さんは手術して良かったと繰り返した。
「一人で歩けるようになっただけで全然違います。自分のことは自分でできるようになったし、リハビリパンツはつけてますけど、一人でトイレに行くこともできます。」
手術後に、群馬にいる娘さんとお孫さんに会いに行った時のエピソードも教えてくれた。
「将棋や七並べをして孫と遊んだんですけど、みんなびっくりしてました。すごいね!って。孫とも過ごせるようになり、本当に手術して良かったです。」

国際医療福祉大学成田病院
田中 達也先生より
田中さんは介護保険の申請のために受診した内科でパーキンソン病を疑われ、脳神経内科でiNPHが見過ごされなかった。この診療連携が現在の生活につながっていると思います。脳神経内科で単にパーキンソン病やアルツハイマー型認知症と診断され、iNPHが併存していることに気づかれなければ、そのまま介護認定を受けて終わっていたかもしれません。アルツハイマー型認知症の、時間や場所の見当識障害、短期記憶障害が残ってはいますが、奥さんとの2人暮らしが継続できているのは、本当に素晴らしいことだと思います。