患者と家族の体験談

増田 征男さん(78)
家族全員で実感した、
一人で歩ける喜び。
「手術して良かった。」
ご紹介文
2020年10月に大阪回生病院でVPシャント術を受けた増田さん(78歳)。アルツハイマー型認知症とiNPHが併存しており、iNPHの症状である歩行障害はトイレに一人で行けないほどまで進んでいたという。
「歩けるようになったことがとにかく嬉しい」そう話す娘さんにお話をうかがった。
異変を感じたのはいつ頃でしたか?
「2020年3月頃に脳梗塞になり、後遺症で認知症状が出ていました。そのとき通っていたクリニックでCT検査を受け、iNPHということが分かったんです。最初はちょこちょこ歩いていて、歩きにくそうにはしていたんですが、それも脳梗塞の後遺症のせいなのかなと思っていました。」
しかし、iNPHの診断を受けたときは一人で歩くことも困難になっていたという。
「一人で歩けないので、トイレに行くにも毎回誰かがついて行かなければいけない状態でした。テレビもつけてはいるけど、ぼーっとしていて観ているのかも分からない…。」
増田さんは歩行障害に加え、集中力が低下するなどのiNPHに見られる認知症状も顕著に現れていたようだ。
病院を受診したきっかけは?
「CT検査でiNPHと分かり、クリニックの先生が『良い先生がいる』と宮﨑先生を紹介してくれました。」
その後、大阪回生病院で検査を受けることになる。当時の状況を宮﨑先生にうかがった。
「増田さんはアルツハイマー病とiNPHが併存しており、アルツハイマーによる記憶障害の改善は難しいと予想できました。ただ、注意力・集中力、そして歩行はiNPHの症状。良くなる可能性が高いため、まずタップテストを行いました。結果、やはり記憶障害は良くなりませんでしたが、歩行は改善され『無口になりかけていたのによく話すようになった』とご家族が効果を感じてくださったので手術をすすめました。」
ご家族は口を揃えてYESと答えたという。
iNPHの診断を受けたときのお気持ちは?
ご家族はiNPHという病気は全く知らず、診断を受けてから手術に踏み切るまで多少の不安はあったそうだ。
「手術をすれば、歩行が良くなると聞きました。手術自体もそんなに難しいものではないとのことだったのですが、脳に管(カテーテル)を入れると説明を受けた時は少し不安に感じました。でも、一度少しお水(脳脊髄液)を抜く検査(タップテスト)をしたら、すごく良くなったと実感できたんです。手術をしたらきっと良くなるだろう、そう確信して手術を受けることに決めました。」
タップテストの良い結果がご家族の背中を押したようだ。2020年10月に手術されてから1年経った増田さんに最近の調子は?と尋ねてみた。
手術をされてから
「まあまあかなあ。」
笑い声が響く。娘さんも嬉しそうに話してくれた。
「よく食べるようになって、顔色も良い。何より歩けるようになったのが本当にうれしい。トイレも一人で行けるし、自分から歩きたいって言うんです。左右が分からなくなるので、一人で散歩は難しいですが、すごい速さで歩くから、元気だね!と周りに驚かれます。本当に良くなったので、多くの方に知って頂いて、あれ?っと思ったら診療を受けて欲しいです。」
アルツハイマー型認知症に見られる見当識障害は残ったようだが、一人で歩けるようになったことは、介護負担の軽減という面からもご家族にとって大きな意味があったのだろう。
「ありがたいことです。手術して良かったです。」
増田さんは嬉しそうに微笑んだ。

大阪回生病院
宮﨑 晃一先生より
増田さんはiNPHとアルツハイマー型認知症の両方が同時に起きている併存例でした。アルツハイマー型認知症に見られる記憶障害・見当識障害は改善されませんでしたが、頭の回転の速さや、注意力・集中力は改善し、何よりほとんど歩けず、ご家族の介護負担が大きくなっている状況だったのが、杖もなく歩行可能になったため、ご家族は大変喜んでいらっしゃいました。手術から1年後の経過も良好で、満足されています。朗らかに会話ができるので、増田さんは通っているデイサービスで人気者だそうです。そういうことをお聞きすると、信じて手術を受けてくださり本当に良かったと思います。