ドクターズボイス
iNPHを知っていただくことが
第一歩になる。
特に2〜3週間で急に悪くなったと感じたら、iNPHを疑って欲しいです。
宮﨑 晃一先生大阪回生病院
脳神経外科

ご紹介文
大阪回生病院でiNPHを専門にしつつ、認知症・脳血管障害・頭部外傷など脳神経外科診療を幅広く行う。iNPHの『i』は『idiopathic(特発性)』で原因不明であることを意味する。「iNPHは脳脊髄液を抜けば症状が良くなる病気。複雑ではないはずなのに原因が分かっていない。その原因をつきとめるのが僕の夢なんです。」穏やかさの内にiNPHへの情熱を秘めた宮﨑先生に詳しく話をうかがった。
iNPHの治療に携わって何年目でしょうか?
「初めて治療したのは2010年。今は検査・手術合わせて月8名ほどの患者さんを新規で診療しています。」iNPH専門だが、脳血管障害・頭部外傷の患者さんが半数以上という先生に、iNPH診療ならではのやりがいを尋ねた。
「症状がすごく良くなることです。神経症状が(外科的治療で)劇的に良くなる病気は数えるほどですが、iNPHはその代表的な病態。歩けなくなりつつある方が元気になったり、久しぶりに故郷に帰れましたと言われると本当に嬉しい。」
また先生の第二の専門領域は「認知症」だという。「iNPHはレビー小体型認知症やアルツハイマー型認知症との併存例も多く、iNPHを専門にするのであれば、認知症にも詳しくないといけないと実感したんです。」
iNPHへの強い思いを感じる。
iNPHの治療に携わって、
印象に残っていることは?
「元海軍将校の矍鑠たる90歳を超えた男性です。画像検査でiNPHの疑いがあり、タップテストで杖歩行だったのが杖なしで歩けるようになったため、ご本人は手術を希望されました。しかし認知機能の低下も見られなかったので、ご年齢を考えるとリスクの方が高いと躊躇しました。すると『それなら最初から検査するな、病気だと分かったのに何を怯んでいるんだ。』と言われました。」
先生は手術を決行。幸いにも結果は良好で「これで友人に会いに行ける」と大変喜ばれたそうだ。
「足腰の筋力が落ちてきて、手術のベネフィットが少ない80歳後半を超えた方は、私は手術を避ける場合もあります。しかし(高齢であっても)治療で症状が改善し、満足して幸せになる方もいる、この時そう実感したんです。」
一方で、悔しい思いをすることも大変多いという。
「車いすの生活で筋肉量が低下すると、手術しても生活のレベルが上がらず、手術を諦めることもある。もう少し早く受診して欲しかったと悔しくなります。」
早期発見をするために大切なことは?
手遅れになる前に、身近に受けられる健康診断や脳ドックなどでiNPHに気づける機会や方法はないのだろうか。
「あり得るかもしれませんが、脳ドックが血管障害の予防を目標としており、脳の形の変化にはあまり着目していないので、難しいかもしれません。ですので、iNPHという病気があること、さらに専門にしている医師がいることを知って欲しいです。“千里の馬は常に有れども伯楽は常には有らず”というように、iNPHも専門としている先生が診ないと気づかれないで手遅れになる場合もある。この歩きにくさは歳のせいではなく、iNPHかもしれないと思える知識と、どこの病院を受診すれば良いのかという知識をつなぐことができれば、より社会的に良い方向に変わっていくのではないかと思います。」
iNPHは50代など比較的若い世代でもなる可能性はあるのでしょうか
「割合で言うと少ないですが50代の方もいらっしゃいます。中には若年性アルツハイマーと診断され、私が診るとiNPHと判明したケースもあります。」
若くても発症する理由がある、そこに原因不明と言われているiNPHを解明するカギがあるのではないかと先生は話す。
「iNPHに関する報告はどんどん上がってきますが、原因は未だ分かっていません。その原因をつきとめることが僕の夢です。」
そう語ってくれた先生に一言いただいた。
「iNPHの存在と症状を知っていただくことが第一歩になると思います。特に“2〜3週間で階段式にいきなり悪くなった”と感じたらさらに疑って欲しいです。もし身近にiNPHではないかと思われる方がいらっしゃったら、受診されるように背中を押してあげてください。」
