髄液シャント手術は、脳神経外科の基本的な手術です。しかしながら、合併症に関する予備知識を得ておくことが重要です。特発性正常圧水頭症(以下、iNPH)の治療は患者さんがご高齢なゆえに、小児水頭症の治療と比較してリスクが大きいといわれています。手術は症状の程度または障害の進み具合いとリスクを判断して行う必要があります。
髄液シャント術による合併症は、手術自体に関連するものと数日から数年経って発生するものがあります。これら合併症は外科手術自体またはシャントシステムの不都合から発生する好ましくない結果ということができます。手術創の感染や髄膜炎といった感染は外科手術に伴う合併症ですが幸いこのような感染の合併症は多くの症例で管理が功を奏しています。中にはシャントシステムの抜去を余儀なくさせる場合もあります。
髄液シャント術に内在する一般的な問題はシャントシステムの閉塞(詰まること)です。これは、手術後数週または数年経って発生する可能性があります。シャント閉塞の可能性は大半の患者で約5%と考えられますが、近年の技術の進歩によりシャント閉塞は減少しています。iNPHの患者で症状が悪化したときは、まずシャント閉塞を疑います。幸いなことに、シャント閉塞は簡単に修正できる場合も多くあります。処置を施してもシャント閉塞を開放することができない場合には、カテーテル等の入れ替え手術をすることがあります。
髄液シャント手術後に発生する重大な合併症は、硬膜下血腫です。髄液シャント術により過剰に髄液が排除された場合に、脳表の血管が引っ張られて出血して起こる合併症です。圧可変式バルブを高圧方向に圧変更することによって処置を達成することもありますが、頭蓋骨に穴をあけて出血して溜まった血液のかたまりを洗い流す手術を施すこともあります。他方、髄液シャント術によって歩行障害が改善し、歩くことができるようになると転倒することもありますので注意が必要です。
また、髄液シャントによって症状の改善に必要十分な髄液を流すことができなければ、改善が得られません。このようなとき、固定圧バルブを埋め込んでいる場合には、より低圧のバルブに入れ替えるための再手術を要することがあります。圧可変式バルブを埋め込んだ場合には容易に適正な圧に設定し直します。
患者さんとご家族は、手術により症状が改善する恩恵がリスクよりも大きいかどうか、担当の医師とよく相談をして判断する必要があります。
髄液シャント術を受けたならば、定期的に検診を受けることが賢明です。脳神経外科医は患者さんの症状の悪化やシャントシステムの異常を示す微妙な変化に気づきます。
患者さんとご家族は下記のような状態の変化を日常的に観察しておくとよいでしょう。そして、患者さんの症状がぶり返してきたときは、必ず検診を受けましょう。
この症状リストは参考です。診断を補助するものではないので、直ちに医師に相談してください。